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相澤英之 のメッセージ 「地声寸言」 |
2015.06.12リリース |
第二百十一回 <公害> |
今は昔、有吉佐和子さんが朝日の紙上に「複合汚染」という題で小説を書いていた。
公害問題が世論にもかなり大きく採り上げられていた頃の話である。 ある時彼女とある雑誌の編集長と私の三人で食事をしていて、この小説のことが話題となった。 二つの話を私が述べたのが攻撃の的となった。 その一つ、人間が一人いても工場が一つ立っても空気は汚染する。しかし、假にその地域に九十九の工場があって、そこまでは汚染度が基準以下だが、百ケを越すと基準値を越す、ということになるなら、百ケから責任があるので、九十九ケまでは責任がないのではないか、これが一つ。 次、その頃伊豆の狩野川が台風で荒れて被害が出ていた。川に沿って十三の工場(うろ覚えだが)があって川の流れが甚だしく汚れて、名物の鮎がダメになっている。この川の水を綺麗にするには工場の排水浄化設備をしなければならぬ。十四億円かかるという。 そこで、相沢の日く。狩野川の水の汚染による被害額はおよそいくらか。答、狩野川漁協の入漁料は年一千万円ぐらいか。相沢、それぐらいなら、鮎釣りは都の暇人の遊びだから、諦めてもらって、漁協には補償料を出す。假に一千万円の倍を払っても、浄化対策費十四億円の金利にもならない。ムダな設備を止めて、補償費を払ってやったらどうだ。 編集長はにやにや笑っていたが、有吉さんは本気で怒って、そういうバカなことを言うのが役人なのだ、私は、複合汚染にその通り私がしゃべったと書いてやる、との御託宣であった。私は、今、そのまゝ書かれたら、国会でも随分せめられて了う、と思ったので、その場は一先づ謝るとしておいたが、本心ではなかった。 皆さん、私の言ったことは眞違いですか。私は、今でもそうとは思われない。 各地で大小の公害論争が壮んであるが、私の言うようなソロバンの話がナンセンスであるべきではない、と思っている。 空気や水を全く汚さないで人は生きて行くことはできない。公害を少なくする努力をすべきだとは思うが、環境を守ることだけが重要な問題ではない。人は生きて行かなければならない。一羽のめずらしい鳥が大事だからといって、それを守るためにいくら高くついても代償を払わなければならない、ものだとは思わない。間違っているだろうか、このような考えをするのは。 |