back 代表理事 相澤英之 のメッセージ
       「地声寸言」
  2015.04.20リリース

第二百一回 <朝>
 この頃毎朝起きると同時に二階の窓から庭を眺めることにしている。鳥が来ていることもあるし、暫らく見ていても一羽も来ない時もある。一羽ではなく、二羽の時も多く、どうも同じ顔触れではないか。よくわからないが、そう思っている。
 不思議とこの頃雀は来ない。土鳩か椋鳥か、たまには何と言うのか、名はわからないが、尾の長い、かなり大型の小鳥が枝に乗っていることもある。
 時に四十雀や目白が混ざっていることがある。もう少し前は百舌のキーツという鋭い鳴き声をよく聞いた。
 泣いて血を吐く杠鵑らしき鳥も見かけるが、たしかかどうか、わからない。烏は何となく不吉な姿でいつもどこかにいるが、あまり寄って来ない。いつか以前、家のジャック・ラッセルが珍しく烏を捕まえたことがあるから、それが仲間たちに伝えられているのかも知れない。
 庭には世田谷区の保存木の札が下っている百年ぐらいの桜の木が三本、水上勉さんから貰った、わが家で水上桜と読んでいる白い花の桜、ある日鳥が落した糞の中の実から生長した山桜などいろいろな木が生えている。
 毎朝一分でも二分でも、カメラを構えて、冬から春に移る木々の姿、花の姿を写しているが、このところ雨模様の日があって、いい絵にはならない。
 こういう自分の家の庭を毎日眺められる仕合せを葉子と話し合っているが、それにしても固定資産税は高いものだと思う。そのせいか、昔は一軒大体一アール(三〇〇坪)の敷地となっていた成城も世帯交替の度に小さくなってくるようだし、そうでなくても昔一軒の家のあったところに二、三軒の家が建ったり、五軒の家が建ったりする。たまに売出の家をのぞいてみると、実にコンパクトな、無駄のない作りとなっているので、感心する。無駄がなさ過ぎて飽きるのではないか、と思わせるほどである。そして、一軒家を建てるにも、材料を工場で作って運んで組み立てるせいか、三ヶ月もかからないで建って了う。周辺の家がやかましいせいか、厳重に囲いをしたり、雑音は仕方がないにしても、随分気を使って工事をしているな、と思うことが多い。
 家のデザインも本当に様々で、もし社会主義国であったら、あゝいう一つ一つ個性のある家ではなく、全く同じ設計のマンションを何十棟も建てるのではないか、と思う。たしかに、合理的で安く仕上げることはできるが、そういう街ばかりでも詰まらない気もする。どう考えたら、いいのだろうかな、と思う。
 この頃、よく成城の街をカメラをぶら下げて散歩をし、しやれた家に気が付くとパシャりと一枚、二枚写すことにしている。随分しゃれた家もある。設計家が遊んでいると思われるような家もある。あらかた木造であるが、この頃は、地下室を一階造っている家も少なくない。とにかく、建蔽率四〇%、容積率八〇%、高さ制限一〇メートルという厳しい制限のある成城であるから、建設基準法のいつかの改正で地下一階は制限外となったことは結構である。
 昔は、成城の住宅には屏を作らないことになっている。と聞いていた。事実、古くからある家の周りには生垣はあるが、コンクリートの屏などは見たことがなかった。
 考えてみると、屏はない方が、泥棒などのひそむ場所を作らないで、治安上もいいのかもしれない。ところが、最近は屏のある家がかなり出来ている。何かあった制度が変わったのか、調べてみたい、と思っている。
 住宅地の姿というものがある。落着いた街、緑の多い街といった成城の姿を遺して貰いたいものだ、と思っているが、無理でろうか。
 
 


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