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相沢英之 のメッセージ 「地声寸言」 |
2012.05.22リリース |
第百二十二回 <「その時日本は」四> |
NHK取材班のドキュメントで第四巻は「沖縄返還」と「列島改造」の二つがテーマになっている。いずれも私が主計局にいて直接又は何等かの形で関与していたので、大へん関心をもって通読した。
沖縄返還は言うまでもなく、それなくしては戦後は終わらないと宣言し、これを最大の政治目標に揚げた佐藤首相の行動を中心に記録。テーマの核心は核抜き本土並みの復帰を認めた米国内における軍部の強い意向を反映して、一旦有事に際しては米側の要求に応じて核の持込みを認めるという趣旨の秘密文書にニクソン・佐藤がイニシャルをしたことが秘密となっている。 そのことを佐藤首相の密使として暗躍していた当時京都産業大学教授の若泉敬が平成八年文春から発行した「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」という記録に載せたので、平成六年六月二十一日に衆議員内閣委員上原康助が採り上げたことから、それまで密約が存在するとしてくすぶっていた疑惑に火が点じられた。 若泉がキッシンジャー大統領補佐官との間で纏め、前掲の本で発表した秘密合意議事録の草案は次のとおりである。 《 極秘 一九六九年一月二十一日発表のニクソン米合衆国大統領と佐藤日本国総理大臣との間の共同声明についての合意議事録 (草案) 米合衆国大統領
われわれ共同声明に述べてあるごとく、沖縄の施政権が実際に日本国に返還されるときまでに、沖縄からすべての核兵器を撤去することが米国政府の意図である。そして、それ以後においては、この共同声明に述べてあるごとく、米日間の相互協力及び安全保障条約、並びにこれに関連する諸取り決めが、沖縄に適用されることになる。
しかしながら、日本を含む極東諸国の防衛のため米国が負っている国際的義務を効果的に遂行するために、重大な緊急事態が生じた際には、米国政府は、日本政府と事前協議を行った上で、核兵器を沖縄に再び持ち込むこと、及び沖縄を通過する権利が認められることを必要とするであろう。かかる事前協議においては、米国政府は好意的回答を期待するものである。さらに、米国政府は、沖縄に現存する核兵器の貯蔵地、すなわち、嘉手納、那覇、辺野古、ならびにナイキ・ハーキューリーズ基地を、何時でも使用できる状態に維持しておき、重大な緊急時代が生じたときには活用できることを必要とする。 日本国総理大臣
日本国政府は、大統領が述べた前期の重大な緊急事態が生じた際における米国政府の必要を理解して、かかる事前協議が行われた場合には、遅滞なくそれらの必要をみたすであろう。
大統領と総理大臣は、この合意議事録を二通作成し、一通ずつ大統領官邸と総理大臣官邸にのみ保管し、かつ、米合衆国大統領と日本国総理大臣との間でのみ最大の注意をもって、極秘裏に取り扱うべきものとする、ということに合意した。 一九六九年十一月二十一日 ワシントンD.C.にて R.N. E.S.》(若泉前掲書) 後半の列島改造については書きたいこともいろいろあるが、ここでは感想の一端を記すにとどめる。 今でこそ、あれが土地のブーム、というよりとんでもない地価の高騰を招き、バブルの源となり、軈てその崩壊が長く続く経済の混乱を惹き起したとか、言われてもいるが、当時は熱狂的な支持を集めたものである。とくに長年、戦後経済の発展に取り残されていたかと思っていた地方の人々にとっては、これでいよいよ都市にも負けない地域の発展が出来るか、という明るい望みをもてるように思ったのである。 地方の経済の発展を妨げているものは、何といっても大都市との、又、相互の人と物との流通の不便さである。高速道路と新幹線は正にその不便さをなくす役割を果すものである。それを日本中に張り回らそうというのであるから、まことに夢が叶うような気がしたのである。日本は高度成長に湧いていた。新全総で公共投資は年率二〇%かそれ以上の伸びを織り込んでいたのである。 日本は世界第二の経済大国に押し上ろうとしていた。地価の高騰は続く。東京を売ったらアメリカが買えると言われた。日本の企業がアメリカに上陸してビルを買い占めた。ロックフェラービルも。 確かにその現象は異常だった。長くは続かなかった。猫も杓子も海外に出した支店もそそくさと仕舞うようになった。今から考えると、首を捻るような変り様であった。 高速道路も新幹線も当時の計画は予想図に過ぎない跡となった。 しかし、私は、未だに列島改造の考え方の基本は間違っていなかったと思っている。その計画の内容が過大であり、その実行のテンポが性急であったことは認めるが、地方の発展の推進力の基盤はそれしかなかった、のではないか、と思っている。 盛岡で止まっていた東北新幹線の先は青函を越えていずれ札幌に届くし、西は鹿児島に届き、やがて長崎にも達するではないか。 高速道路もテンポはがっかりする程落ちてはいるが、ジクジクとナメクジのように這って先に伸びている。 |