back 理事長 相沢英之 のメッセージ
       「地声寸言」
  2012.01.11リリース

第百十八回 <混迷する増税の行方>
 財政再建のために消費税の増税は避けられない、という議論は随分前からある。無論自民党の政権時代にもあったが、踏み切れなかった。理窟は一応わかっていても、いざ増税の実行となると反対の声が強くなる、それを言い出した政党が選挙で負ける。過去の実績である。
 世論調査によれば、国民の半分以上は消費税率の引き上げを止むをえない、と思っているというが、果たしてそうか。もし、次の総選挙で民主党が消費税率の引上げをはっきりマニュフェストに掲げたら、多分間違いなく負けるだろう、と思われるが、そのことはわれわれよりも当選一、二回といった若い選良諸君は肌でもって感じているだろう。いざとなれば、何といっても落ちて了っては身も蓋もない。昔、誰かが言ったでしょう。猿は木から落ちても猿だけど、代議士は選挙に落ちたらただの人である、と。だから、こんな状況で、二十四年にはきっと解散総選挙だよ、と言われれば、民主党を離れる議員が出てくるのである。十二月二十九日、今朝の新聞によれば、もう一〇人にもなって、まだ続くだろうという。かつて選挙区制度の改正をめぐって、改正反対の人は守旧派と札をつけられ、選挙で大いに苦戦したことを想起する。
 今度も、選挙に弱いと言われる人は一層その辺を気にするであろう。現に十人のうち九人までが比例の当選者、つまり小選挙区では落ちた人たちだから、決して選挙に強い人とは思わない。
 前から言っているが、日本は米国と同じように間接税よりも直接税に重きを置いている税制である。税制改正の方向としては、ヨーロッパの諸国のように間接税に軸足を移すべきだ、という議論があって、その方向で進んで来た、と思う。
 ところが、消費税率の引上げが不評である、ということで直接税、とくに所得税などの引上げを決定しようとしている。さなくとも、諸外国に比べて法人税率が高い、所得税が余りにも累進性をもって高くなっていることもあって、企業が陸続として海外に工場のみかは、本店までを移そうとしている。個人も老後は海外で、という人も増えている。
 日本の空洞化を憂うる者の一人として、ここは消費税率の引上げの代りに高額所得者の所得税を引上げる、といったような改悪案は反対である。
 日本は社会主義の国ではない。何かと言うと高額所得者を目の敵にして徴税の強化を主張したり、社会保障面でも所得制限を当り前のように言ったりするのは、まことに不思議と言わざるをえない。それに、高額所得者の所得税の引上げなんて、いくらにもならない。弱い者いじめの感すらしないでもない。日本は飽くまでも自由主義、民主主義の国であり、あらなければならないと思う。
 財政再建は絶対に必要である。しかし、私が繰り返し言っているように、今このデフレ状態にある我が国で経費節減と増税によって財政再建を図ろうとすることは無理であって、ここは大幅な財政支出の発動と金融の緩和などによる所得の増、税収の増というような経済の拡大政策によるべきものであると思っているが、読者諸賢如何に。
 
 


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