back 理事長 相沢英之 のメッセージ
       「地声寸言」
  2011.07.11リリース

第百九回 <新幹線>
 新幹線を利用することが多い。乗る度に列島改造論とともに新幹線や高速道路の建設で苦労したことを思い出す。公共投資の五ヶ年計画を樹て、インフラ整備の夢を描いていた頃である。
 高速道ほどではなかったが、新幹線建設の第一の課題は言うまでもなく路線敷となる用地の確保である。アメリカの鉄路がいわば無人の野を西へ西へと向かっていた開拓とは違い、わが国の場合は既に開発され盡している土地に幅広い一条の土地を無理矢理に確保するのであるから、用地の買収以外にそれに伴う措置、例えばぶつぶつと切断される道路や用水路などの付替えだけでも大へんな手当が必要であった。
 農地の交換分合も一仕事であった。それぞれの利害がからみ合っているだけに簡単に用地分を減少して補償すればいい、というようなものではなかった。もめにもめて血の雨を降らせたところもあったと言う。
 大陸を横断するような話ではない。狭い日本の土地に時速二〇〇キロ以上の列車を走らせる必要があるのか、といったようなそもそも論も消えなかった。
 しかし、そのような幾多の障碍を乗り越えて新幹線の建設は高速道とともに進められた。列車も今や二〇〇キロの時速から三〇〇キロ代に進んできた。リニアーモーター路線の建設も始まろうとしている。
 もう、鉄道の時代ではない、とまで言われていたのが、今や再び世界に鉄道建設の計画があちこちで進められている。地球温暖化対策として省エネの古くて新しい武器として鉄道が見直されているのである。
 新潟の山の中で育った田中元首相は数メートルにも及ぶ積雪の中で最後の交通手段として残される鉄道に異常とも思える情熱を向けていた。列島改造の夢は未だ果されていないが、修正は止むをえないとしても根本から間違っていたとは思えない。
 それにしても、かつての建設省や運輸省が荷なっていた海、港、空の交通手段の整備には統合的な調整が必要であり、経企庁が、そして後には国土庁が担当すべき交通の總合計画は今やどうなっているのであろうか。こういう計画まで官より民へという訳には参らぬ。正に官の果たすべき役割である。
 公共投資に向けたかっての情熱を今直ぐ取り戻すべくもない経済情勢だが、それにしても国土の總合開発計画が不用になったとは言えぬ。早速に、少なくとも検討を開始すべきである。
 そして、それと同時に、わが国の交通整備に関する智識と経験とを、要すれば資金をつて世界の国々に輸出すべきではないか。各国が政府の感信もかけてインフラ整備事業の輸出に力を傾けている時に、日本がのんべんだらりと拱手していてよいか、改めて検討して貰いたい。
 
 


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