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相沢英之 のメッセージ 「地声寸言」 |
2010.01.08リリース |
第五十七回 <「これでいいのか二十二年度予算(続)」> |
鳩山政権が十二月二十五日閣議決定した二十二年度政府予算案ではマニフェスト(政権公約)関連予算も圧縮せざるをえなかったが、それでも史上空前の国債発行額(四四・三兆円)、国債依存度(四八%)となった。しかし、公約したガソリン税の暫定税率を実質維持するなど、いわば公約違反を犯さざるをえなかったし、高速道の無料化もほんのお印とならざるをえなかった。
それはそれとして、民主党の政策のうちいくつかについて私なりの意見を述べてみたい。 その一つはダム事業の凍結である。 前原国土交通相は内閣発足と同時に八ッ場ダムの建設をマニフェストにあることを理由として工事の中止を決めたが、今月二十五日、国と三八都道府県が進めている一四二のダム事業のうち、ダム本体に着工していない八九のダム事業(計九〇ヶ所)を来年度新たな国の治水基準による検証の対象とすることを明らかにした。新基準はダムに頼らない前提で検討されており、八九事業は事実上、凍結される可能性が高いという。一四三のダム事業のうち今年度完成したり、既に中止が決ったりしている七事業を除く一三六事業のうち、@十一月までにダムの本体工事に着工しているもの、Aダムの機能を強化する事業(堤のかさ上げや新ダム建設は含まない)、B既にダムに頼らない治水対策を検討している、のいずれかに該当するものを除く八九事業を検証対象にしたという。 一四三事業の総事業費は計約八兆五千億円で、八九事業が検討の結果、仮に中止されれば二兆五千億円前後の事業費が削減される見通しになるという(十二月十六日、朝日・朝)。 さて、私が疑問に思うのは、確かにこういう工事にかなりの期間を要する事業について発足当初から種々の与件の変化によって事業の必要性、内容などに変化が全く生じないとは思われない、ことは事実である。 しかし、いくら地球の温暖化が進むなどによる変化があるとは言え、これだけ沢山の事業が一挙に全部ムダだ、必要がない、ということになるのだろうか、という大きな疑問がある。 工事の存続を決められた事業も必要だという理由よりも、もうかなり進んでしまったから仕方がない、という理由のように聞える。 わが国の公共事業の中でダム建設は大きな地位を占めていた。 日本列島は多雨で、台風に恵まれ、急峻の地形も多く、被害防止のために治水ダムの建設が必要とされ、又、農業、工業、飲用などのいわゆる利水の面においてもダムの必要性が唱えられて久しい。 従って、綿密な計算のもとにダム建設の地点、ダムの大きさ、形態等が決められて来た筈なのに、それが政権が変ったからとして、一挙に不必要なもの、ダムではなくてムダなものになるとは、どうしても信じられないのである。 それは中には、農家数、田畑の減少などによって農業用水がそれ程要らなくなったり、企業の誘致が予定どおりにならず、又、工場の廃止・縮小などによって工業用水の追加が不用となったり、人口の減少で上水道の需要が減ったりの与件の変化によってダムの必要性を見直すこともないとは思われないが、それにしても一斉にこれだけのダムが不必要になるとは、一体関係官庁は何をしていたのか、問いたい気持ちである。本当にダムは不要になったのか、と声を大にして聞きたいのである。 ダムに限らず工事の中止はロスである。ダムはとくにそのロスが大きいと思う。建物建設の中止なら、その跡の土地は又何かに使えるが、ダムを作りかけて止めたら、跡は一体何になるのだろうか。大へんなロスではないか。 もう一つは高校の実質無償化である。 金さえ余裕があれば悪いこととは思われない。しかし、この財政面の窮屈な時に強いて実施する必要はないと思う。 この頃新聞でも小中学校の生徒で給食費の納入が滞っているところが増えているという。 私は、本来義務教育教科書無償配布に反対であった。教科書ぐらいは父兄が負担すべきであると思っていた。事実、私が昭和二十年代大蔵省主計局の文部担当主計官の時、昭和二十七年天野文部大臣の時に制定実施された小学校一年生に国語・算数の教科書を無償で支給するという法律を廃止し、新たに生活保護及び準要保護児童生徒に対し全教科書を無償で配布するという制度を創設することにしたのである(当時内藤誉三郎初等中学教育局長)。 その後、義務教育の児童生徒全員に対する教科書の無償配布の制度が創設されることになった。 私は、高校教育の無償化に踏み切るくらいならば、義務教育である小中学校の児童生徒全員について、例えば給食費や教材費を無償とする方がはるかに大事ではないか、と思っている。順番が違っているのではないか、と思う。 北欧諸国のようにおよそ教育費は大学まで無償というのも理想としては考えられると思うが、ともかく現段階としては義務教育の無償化を促進する方が先ではないかと考えるが、読者諸賢如何に思われるか。 |