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相沢英之 のメッセージ 「地声寸言」 |
2009.08.03リリース |
第四十六回 <「有為転変」> |
いろいろな経緯はあったが、麻生総理はこの七月二十一日に衆議院解散、八月十八日総選挙の公示、三十日投開票の日程を決め、その通り実行された。
自民党内であちこちから両院議員総会の開催を強く要求され、署名運動もあったが、結局、開かれず、非公式の両院議員懇談会を二十一日の本会議前に開くことで落着した。懇談会は麻生総理の強い意向で公開となったが、懸念されたようなゴタゴタもなく、全員一致協力して戦おうという雄叫びで閉じられたという。 地方選挙の結果は国政とは関係ないと言うものの、相続く地方首長選挙や東京都議選で自民党系の候補が惨敗したことが、自民党内におけるいわば相剋と全く無関係とは思われない。一般の有権者はそこに一つの流れを見ているのではないか。 昭和三十年保守合同で自由民主党が誕生して以来長いこと自民党単独ないし自民党を中心とする政権が続いて来た。この間、細川内閣、村山内閣などが生れたが、いずれも短期間であった。 地域別、職域別の党員三百万人を抱え、およそ自民党公認の紋章を戴けば、国会議員として楽に当選し得た自民党圧制の時代は、もう昔の幻に近くなった。ポスターから自民党公認の文字を削り、総裁の写真を避けるような事態は、誰が予想しえたであろうか、今や、平家物語の書き出しのように諸行無常の響きを耳にする。この移り変りは今さら非情なものだと歎かざるをえない。 しかし 翻って思うに、戦後、敗戦の灰の中から立ち上った日本が今日米国に次ぐ世界第二の経済大国(もっとも、最近GDPの総額で日本は中国に抜かれたと言われる)と評されるようになったこの六十有余年の日本の復興は、その礎に自民党を中核とする保守政権によるおおむね妥当な国政の運用があったことは否定できないと思う。ルック・イースト、日本に学べ、というスローガンは日本の自惚れではなかったと確信する。 しかし、最近は違った。失われた十年といわれるが、欧米もそれなりに、そして中国、インドなどアジアの諸国が驚くような経済的躍進を示しているなかに、ひとり日本がその嘗ての栄光を衷っているかのように経済も沈滞していることは甚だ残念でならない。何かにつけて自信をなくしたような日本の姿を見るようで、情なくてならない。 石原慎太郎氏が産経新聞に月一回「日本よ」という呼びかけで小論文を寄せている。毎号私は読んで、同感するとともに、こういう都知事が存在していることに意を強くしている。 しかし、都議選の結果は与党が過半数を失うことになり、今後の議会運営の困難さを思うと今から同情しているのであるが、それはともかくとして、日本人が今改めて誇りをもって、この難局に対処することを心から願っている。 少子化現象はとまらないと雖も、なお一億二千万人余の人口を擁し、国民一人当りのGDP三万四千ドルと言われている大国日本の未来に失望することはない。識字率九九・八%という知的水準をもとに技術大国日本がその豊かな資金力を動員して、世界でその存在を立派に示し続けることが可能だと信じて止まない。 欧米諸国の飽くなき植民地拡大の欲望に独り抗して日清、日露の大戦を制し、あらゆる分野で驚異的な発展を示して来た日本が、ABCDラインの包囲網を破ろうとして発した太平洋戦争は国力の限界を見誤った軍部の圧政などもあって、まことに惨憺たる敗戦、無条件降伏を連合国に誓わざるをえなくなったが、フィリッピン、インドネシア、タイ、ビルマ、インドなど東南アジアの各国の独立運動に大きな刺戟と影響を与えた事実は否定することはできないと思う。かつて、日経新聞の「私の履歴書」欄でシンガポールのリー・カンユー首相が綴っていた言葉を忘れることができない。あの、絶対に立ち向うことなど考えられもしなかった英国の軍隊を日本軍がたった十日間の戦斗で屈服させた事実は、われわれに独立が夢ではないと思わせる大きな契機となったという趣旨であった。彼は続けて、もし侵略云々と言うなら、数十年、数百年も前からの欧米のアジア各地の植民地化を目指す侵略活動をまず非難すべきではないか、だから言う。今は、過去の出来事について日本が謝りばかり言って歩くことは止めて、お互い将来に向って、どう協力しうるかを相話し合って行くことの方が遥かに大事ではないか、と述べていた。 この人にして、この言あり。平成元年天皇御即位の時に経済企画庁長官としてお祝いの席に列なる栄光に浴したが、たまたまいつの晩餐会であったか、リー・カンユー首相と同じテーブルに着く折があった。この記事についてお話をしたかったが、タイミングがとれず、残念であったことを今も思い出している。 一寸、話が外れて了が、いずれにしても、日本人が再び国民としての自覚を取り戻して、将来に向って前進する活力を膨らまして貰いたいと祈念するばかりである。読者諸賢如何に。 |