back 理事長 相沢英之 のメッセージ
       「地声寸言」
  2009.02.20リリース

第三十五回 <「とにかく成長・雇用に政策総動員」>
 与党に景気対策のための大規模補正案が持ち上がっている。自民党幹部は二〇〜三〇兆円の規模が必要と言っている。米国も公共事業を含む大型の財政支出を実行すると言われている。
 他方、ローマで開かれたG7財務相・中央銀行総裁会議は十四日午後、成長と雇用を支え、金融部門の強化にあらゆる政策手段を使って協働する」と明記した共同声明を採択した。
 二月十六日内閣府が発表した平成二十年(二〇〇八年)十月〜十二月の国内総生産(GDP)速報によると、実質GDP(季節調整済み)は前期比三・三%減、年率換算では十二・七%と主要国では最も急激な落ち込みとなった。年率換算で二ケタのマイナスは、第一次石油危機の影響を受けた昭和四十九年(一九七四年)一〜三月期(一三・一%)以来、戦後二度目だという。
 ふり返ると、丁度その頃、私は大蔵事務次官として、オイルショックに対処すべく、経企、通産の事務次官とともに三次官会議を開いて、あらゆる産業を五段階に分け、電気・ガスなどの大幅節減を求めていた。産業種別に二〇、一五、一〇、五、〇と五分類の節約率を設け、いわばそれを強行した。ネオンサインは一〇キロワット以上のものは全部ストップとしたので、銀座のネオンの九割が消えたといわれた。
 しかし、その際の徹底した省エネ対策が鉄鋼業を初めとしてまことに目ざましい消エネ技術の開発を進める結果となったし、日本の自動車産業を飛躍的に発展させる原動力となった。正に禍を転じて福となす、ということになったが、当座GDPの成長率が大幅に減退するのも止むをえなかった、と思っている。
 今回、日本の傷は浅いなど言った閣僚もいるが、大間違いであって、主要国の同時期の実質GDPは、米国がほぼ二七年ぶりとなる年率三・八%の減、欧州(ユーロ圏)も九九年のユーロ導入以来最大となる年率七・八%の減であったが、日本の落ち込みは米欧をはるかに上回ったことになる。
 日本の十〜十二月期の実質GDPの内訳では、輸出は十三・九%減となったが、この減少幅は昭和五十年一〜三月期(九・七%減)を上回り、過去最大、輸出から輸入を差し引いた外需は成長率を三・〇%分押し下げた。
 外需がこれほど大きくマイナスにはたらいたのも初めてという。
 GDPの半分以上を占める個人消費は〇・四減と二期ぶりのマイナス、雇用情勢の悪化に伴って消費者心理が一段と冷え込み、高額品を中心として買い控えの動きが広がっていることは、百貨店の売上げ減を見てもよくわかることであった。
 物価変動を反映し、景気実感に近いとされる名目GDP(季節調整済み)は前期比一・七%減、年率換算で六・六%の減、マイナス幅は金融システム不安の影響を受けた平成十年(一九九八年)一〜三月期(年率七・七%)に次いで過去二番目、前期比マイナスは、戦後初めてとなる四期連続となった。
 麻生内閣の最大の課題は景気回復であり、若くして幾多の会社の経営にたずさわり、又政治家として党の政調会長などを歴任してまさにこの課題に取り組むにもっともふさわしい首相として総裁選で圧倒的な支持を得た麻生氏にとっては願ってもない舞台であったと思う。
 河野派で同志として相たずさえて政治の課題に取り組んで来た私としては、蔭ながら精一杯麻生首相を支援する決心で、総裁選立候補以来何かと政策について意見具申して来たが、本当を言えば、麻生氏には首相就任直後に景気対策を中心とした思い切った政策を揚げ、それを国民に問う形で解散・総選挙を行うべきであると進言した。
 ところが、リーマンショックで始まる米国発の金融不安が引き金となって世界中の金融を攪乱し、それが実体経済に大きく波及し、いわば全世界の、それこそ百年に一度あるかないかという不況を招来するという状態になり、到底、日本が解散、総選挙するというような、政策的に見れば停滞としか思えないアクションをとることは不可能という姿になった。
 これは、麻生首相の責任にはならない誤算であるが、ともあれ、解散の一つの好機を逸せざるをえなかった。
 その後も、比較的傷は浅いとも見られた日本の経済が、先に述べたように列国最大のGDPの下落を招くような事態に到った。
 となれば、どんなことがあっても解散、総選挙どころか、先ず景気対策を盛り込んだ来年度予算を成立させ、さらに早急に思い切った大規模の第二弾の景気対策をとらざるを得なくなった。
 そこへ又、麻生首相の最も信頼する盟友の中川財政・金融相の不手際である。テレビで見ていても情けないとしか言いようのない醜態であって、早急の辞任声明でも、どれだけ救われるか気になるところである。
 景気対策のいわば要ともなる重要なポストを占めるだけに人に後指をさされない行動が必要だったのではないか。
 ま、しかし、起こしたことは仕方がない。過ぎたこととして、更に前向きに政策の前進を図らなければならない。
 去る二月十三日麻生首相を官邸に訪ねた私は、次のようなことを検討、実行して貰いたいと要望しておいた。


 一、景気対策の遂行

1、株価
   一、株買取機構の活用
   一、日銀による買取り(前回二兆円)十兆円
   一、利益は後日国庫納付金となる厚生年金・共済年金などのポートフォリオの改正、国内株の買入れ増加
   一、郵貯資金の活用
  
2、企業に対する資金導入
   政投銀行資金の大幅増加
   中小企業に対する保証枠の再追加
   日銀による社債の買入れ
   不良債権の買上げ(バッドバンク構想)
  
3、財投資金の活用による公共投資の大幅追加高速道路、新幹線など

    
 上に列記した事項以外さらにいくつもの政策が考えられると思うが、いずれにしても米国もチェンジのオバマ大統領が画期的な景気対策を、財政問題は措いて果敢に実行を約しているのであるから、わが国も、とにかく百年に一度というような状況であるだけに、これから先のことはくよくよ考えないで、それこそ智恵を傾けて政策を打ち出し、実施に移すべきであるし、民主その他の野党もここは徒らに政局にかかわらず、いい政策はいいとして政策として実行に協力すべきではないか。そういう大人の政党としての対応があれば、さらに国民の支持を拡げることもできるだろうと思う。
 いわば、今まで自らこけているような自民党の足を引っぱるようなことしか考えないでいたら、民主党も国民に見放されるようになると考えるが、読者諸賢如何に思われるか。
 
 


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