back 理事長 相沢英之 のメッセージ
       「地声寸言」
  2009.01.30リリース

第三十三回 <「景気はどうしたら回復するのか」>
 こんな設問をすること自体まだ早いのかも知れない、と思いながら、近頃とみに聞かれることが少なくないので、つい、纏まらないながら、今感じていることを記してみることにした。
 一月十八日の日経朝刊トップの見出しは「札幌北洋、公的資金申請へ」「数百億円を軸に年度内にも注入」「新金融強化法で初」となっている。以下同紙を引用する。
 
 「北海道が地盤の北洋銀行を傘下に抱える札幌北洋ホールディングは十七日、公的資金の注入を金融庁に申請することで最終調整に入った。金融機関に公的資金を予防的に注入する新しい金融機能強化法に基づく措置で、早ければ今年度中を受ける。注入額は数百億円を軸に詰める。金融市場の混乱が今後も続くと判断、公的資金による資本増強で将来の損失に備え、貸し出し余力を高める。」
 
 札幌北洋は平成九年に経営破綻した北海道拓殖銀行の営業を引き継いだ北洋銀行が平成十三年に札幌銀行と共同で設立したもので、昨年十月には北洋と札幌が合併した。預金量は二行合併前の九月末で計六兆三千億円強。全国の地銀の六位に当る。平成二十一年三月期の決算では証券投資や不良債権処理の損失から二十五億円の連結最終赤字に連絡するとの見通しとなっている。ただ昨年九月末の連結自己資本率は九・二%で国内で営業する金融機関に必要な四%を大幅に上回っている。
 しかしながら、昨年以降の株価の一段安から証券投資の損失が膨らむ可能性もあり、北洋銀の自己投資に加え公的資金の資本注入で財務基盤の厚みを増しておくことが必要と見られている。注入見込額は、自己資本比率を一〇%以上の水準に保つ規模とすることを想定しているので、数百億円程度から、場合によっては一千億円の規模に達する可能性もあるという。
 平成十二年、いわゆる金融特会において、私は金融二法を審議する金融安定化に関する特別委員会の委員長として同法の成立にかかわったのであるが、公的資金の注入という思い切った措置が金融情勢の安定に決定的に寄与をした上、注入された資金もあらかた回収されることになったので、法制定の効果は充分にあったと思っている。
 もっとも法案審議の最中、二十数年主計局にあって千円の金でもムダにはすまいと査定の眼を光らせていた私にとって、一民間の金融機関に何千億、何兆円という国の金を投入することについて正直言ってかなりの抵抗感を持っていたことも事実である。それだけに、公的資金注入問題の推移については強い関心を持ち続けていたので、結果については、いわば、やれやれという一種の安堵感を持っていた。それが、又、再び問題として登場したわけである。
 今回は昨年成立した新しい金融機関強化法に基づく措置であって、折角適用するなら早急に実施したらよいと思っている。他の地銀についても一せいに公的資金を注入するという考え方もあるようであるが、いずれにしてもこういう措置はスピードも大事であると思う。
 それにしても、サブプライム問題に端を発した米国の金融不安が世界的に拡がり、実体経済にも甚大な影響を与え、それが当初比較的被害が少ないかと思われていた日本の経済にも不況の波が押し寄せるような姿となって来た。
 札幌北洋ホールディングのような金融機関の救済も勿論大事であるが、それだけで事はたりるとは思われない。
 世界一の自動車製造会社と見られていたトヨタは一昨年度二兆二千億円の黒字に対して昨年度は一五〇〇億円の赤字見込みであり、製造台数も国内は昨年度の半分の一日九千台程度に減らすと言い、又、ソニーも一万六千人の人員削減を余儀なくされていると言う。
 自動車産業に関連深い製鉄業も大幅減産、海運会社も荷動きが減れば傭船を減らすとなれば、先行き四、五年もの手持受注のあったと言われた造船業も解約が続く、となれば又厚板の需要も落ちる。又、それが、鉱石船の船腹も減らす。といった具合に不景気は増大する。
 日銀が金利を下げても、資本需要の増加には繋がらない。株価の暴落は金融機関の資本を脅かしているが、貸し渋りはそれだけが原因ではなく、資金需要そのものも落ちて来ている。こんな状態では、経済の明るい先行きが見込めないだけに、業務を拡張しようという意欲はなく、設備投資も手控えるということになる。
 企業のリストラが進んで、今や雇用の減が大きな社会問題ともなりつつある。五百人やそこらのホームレスの対策がマスコミに大きく採り上げられているが、そんな程度の問題ではない。
 悪循環というか、何と言うか、今さらながら経済の連鎖的な反応に眼を見張る思いであるが、さて、どうしたらいいのか。
 結論的に言えば財政の出動しかない。プライマリーバランスの回復が数年延びるとか、延びないとかを問題にしても仕方がない。ここは、内需拡大も民間の力には頼れないから、政府が、国だけではなく地方も思い切った財政支出を覚悟しなければならない。米国のオバマ政権は年一兆ドルの財政赤字を予定して景気刺激の対策にとりかかるという。米国だけに負かしておける状況ではないから、各国もそれぞれの立場と方法で景気対策を進めるというのではなく、今一応にも二応にも会議を開き、各国力を合わせて景気対策に乗り出すべきだと思う。
 イラク紛争も軍需拡大になるというか、ああいう再生産には寄与しないムダな財政支出はお互いに早くとめて、本当に不況の克服に寄与しうる政府の対策を強化すべきではないか、と思うが、読者諸賢如何に思われるか。
 
 


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