back 理事長 相沢英之 のメッセージ
       「地声寸言」
  2008.12.11リリース

第二十八回 <「綸言汗の如し、他」>
 「綸言汗の如し」という言葉が近頃やたらと新聞紙上に散見するようになった。麻生総理が発言を屢々変えることについてであって、総理ともあろうものが、一度言ったことは変えてはならないと批判しているのである。
 そもそも「綸言」とは「天子の仰せごと。君主のことば、みことのり」の意である。「綸」は組糸。天子の言は、そのもとは糸のように細いが、これを下に達する時は綸のように太くなる意。」(小学館、日本国語大辞典)。
 そして、「綸言汗の如し」とは「君主の言は、一度出た汗が再び体内にもどらないように、一度口から出たら、取り消すことができない。」(同上大辞典)
 綸言とは、正に天子の言葉を意味するのであるから、総理の言葉を綸言に例えるのは、いささか不遜の感があるが、とにかく国の行政の最高責任者たる総理は、軽々しく発言を変えてはならないという意味である。
 たしかにこのところ麻生総理の発言が二転、三転する、ないしはするように見えることはマスコミの報道によれば、事実のようであって大へん残念でならない。
 こと、政策については、見方を変えれば、又、立場が異なれば、いろいろな批判が出てくることは止むを得ないとも見られるから、一度言ったことは、よほどのことがない限り(前提となる事実の相違とか)、変えないようにすべきである。そういうことをすると、この先、何をしゃべってもやがて変えるのではないか、と不信の念をもって迎えられる心配もある。第一、軽くみられ、総理の発言をそのまま素直に受け取られなくなる懼れもある。
 それだけに総理は発言を慎重にし、思いついたことを直ぐにパッとしゃべるようなことはしないで、よくよく考えた上で、発言する、発言したからには、滅多なことでは変えない、という気迫を示すべきであると思う。
 
  「歳出拡大の大合唱」
 十二月三日付朝日新聞の見出しである。
 その記事によれば、二日の自民党政調全体会議では、社会保障費や公共事業費もこれ以上抑制したり、削減したりはできない、財政規律を維持する政府方針を撤廃せよという大合唱となった。
 これを受けて、直後の党総務会では、党四役が歳出削減方針の三年凍結で一致したという。
 もともと米国のサブプライム問題を発端とする金融不安が世界的に拡がり、金融不安がさらに経済の実体に又大きな影響を与えている。
 地価が下る、株が暴落する、リストラによる離職者は刻々増えている。という情勢を眼の前にして、政権与党も責任を負うものとして、何とか有効な手を打たなければならぬ、という焦りにも似た気持ちが押し出されてくる。
 米国でも、政府、FRBなど、平時ではとても考えられないような思い切った手を打って来たが、それでもまだ不充分だと言われている。
 今朝(十二月六日)の新聞では、遂に自動車のビッグ・スリーに対して一五〇億ドルの緊急融資を行うなどの対策が示されていたが、それとてもまだ足りないという声もある。
 麻生総理は、財政規律を重視する勢力に配慮してか、シーリングを維持する方針は崩さず、規律維持の旗を掲げつつ、自在な財政出動を求める道を探っていくとし、十二月二日午前の閣議後、二階経済産業相や金子国土交通相を前に、雇用対策などとして、三年間十兆円の予算特別枠を設ける意向を提示したという。(十二月三日付朝日新聞)
 シーリング維持の旗を守りつつ、シーリングの枠外で自由に使える財政を出動させる方針だという(同上)。
 私は、どうも、こういう説明は納得できない。国の財政に懐がいくつもある訳 ではないし、シーリングを守りつつ、例外を作るという説明はナンセンスであって、実体はシーリングの枠を越えているのであるから、ここはアッサリと緊急の事態に対応するため、シーリングの枠を外すとハッキリ言明した方がよほどわかり易いと思う。
 およそわかり難い政策は国民に受け入れられ難い。私は、前々から、今はもはやシーリングの制度は既成予算を固定化させ、財政の弾力性を喪わせる懼れが大きいから、早々廃止すべきであると主張している。
 シーリングの制度を止めたら、財政の膨張を抑えられなくなる、というのは遁辞に過ぎず、むしろシーリングを外して初めて予算の弾力性を回復することができるし、思い切った重点的な予算計上が、少なくとも可能となる道が開けると思っている。
 今や、このような時こそ、景気回復のために財政の出動を考えるべきである。国民一人当りの国債が何百万円になるからというような数字だけを持って圧縮財政を行うことは、財政の経済に及ぼす影響を考えていない小児病的な見解と言わざるを得ない。
 今までも、財政再建は経済の拡大が先行して果せたのであって、単に歳出のカットを強行し、収支の近視眼的なバランスを追求する方策からは生れて来ないことは、過去の例の示すところである。
 つまり、この緊急事態には遠慮しないで、シーリングなど撤廃し、財政の機能を充分発揮できるようにすべきであると考えるが、読者諸賢如何に思われるか。
 
 


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