back 理事長 相沢英之 のメッセージ
       「地声寸言」
  2008.12.08リリース

第二十七回 <「整備局などの統廃合は?」>
 地方分権推進のため国の出先機関、とくに国交省の地方整備局、農林水産省の地方農政局の統廃合が問題となっている。麻生首相は前向きの姿勢を示しており、丹羽地方分権改革推進委員長にも、抜本的な統廃合をして欲しいと言い、委員長の勧告を受け取った上で決断したいと述べている。
 この方針に対して、国交省、農林水産省の事務当局から強い反対が出ているだけではない。例えば、党の道路調査会から首相は国の役割をはっきり言うべきだという声が出ているし、国土交通部会でも、首相に出先機関改革を撤回させるべきだとの声があがっている。
 地方分権を推進する党道州制推進本部からすら、十一月十三日の総会では、道州制となればなくなる都道府県に国の出先機関の検討を移そうというのはおかしい、などの反対論が続出したという。
 次期衆議院議員総選挙で政権交代を目指す民主党でも分権調査会の役員会案では、整備局、農政局の原則廃止を明記しているものの、仝党支持勢力には一部の国家公務員の労働組合もあり、党内からは慎重論も出ているという(以上、十一月二十七日付の読売新聞の記事による)。
 国の出先機関には右の地方整備局、地方農政局の他。地方運輸局(国交省)、経済産業局(経産省)、法務局(法務省)、総合通信局(総務省)などがあり、主として各ブロック別の国の地方出先機関となっている。そのうち、法務局や総合通信局などは、地方の業務になじまないとして存続させる方向であるという。
 国の出先機関の統廃合は、国と地方自治体とのいわゆる二重行政の発止や国の出先機関の業務を地方に移すことで、地方議会による監視機能を働かせ、無駄遣いなどを妨ぐ目的があると言われている。
 たしかに地方自治体の行政が充実してくるにつれて、国の権限を地方自治体に移して差し支えない、否、移した方がより地方の実情に即した行政が行われるようになることも事実であり、既にいろいろな面において地方自治体への権限移譲が行われて来たが、まだまだ不充分であるとの見方も強い。
 例えば、国交省所管の国の直轄道路や一級河川の地方移譲は、国交省と各都道府県との交渉の結果は、国道の全体の一八%、河川は小規模な二〇水系に限るなどとなっていて、都道府県からはさらに移譲の対象を拡大せよと要望されている。
 ただ、数都道府県に跨る国道は一級河川の移譲は、整備、維持管理の態様に差違が出てくることは、たしかに問題であり、国の一元的行政に委ねるべきであると思われる。となれば地方整備局を廃止することはムリであるし、統合は、形だけの整理となり易く、かえって円滑な行政の遂行を妨げる懼れがある。
 又、 一般的に国の行政権限を地方自治体に移譲する場合、受入れ側の地方自治体の行政能力が不充分な場合もあり、又、地方自治体の財政力に現に差がある以上、行政水準に格差が生じる懼れもなくはない。
 従って、行政権限の移譲には、これに伴う財源の移譲も当然必要なのであるが、それは行政権限を移譲する省庁だけでは措置することが出来ないので、財務省や総務省と充分協議を重ねなければならない。
 私は、いわゆる三位一体の財政調整は失敗ないしは欠陥があると思っているし、この欄でもこのことを記したが、地方分権推進の言葉へ惹かれ過ぎて、長い間大過なく行われて来た国、地方の行政の在り方の変革を急ぎ過ぎてはならない、と考えている。
 又、地方分権を推進するためには、国からの権限移譲もさることながら、市町村の在り方をどうするか、道州制を一体どういう時期に、どういう形で進めて行くか、等の議論も充分に詰めなければなるまい。
 市町村の合併も幾多の問題を遺しながら、とにかく進められて一段落となったが、都道府県別に見るとかなりの差がある。もちろん市町村については、長い昔からの歴史、経緯、財政などいろいろな事由があって、ただ外面からだけみて充分、不充分の議論をすることは危険であるが、県側が熱心であったか、否かもかなり影響している。
 本当は、国も乗り出してもっと指導した方がよかったのではないか。地方自治体の問題だから地方自治体に委せておく、という態度では、国の責任回避ともとれなくもない。時には、こういう問題は、高所からの判断に基づく国からの圧力も意義があるのではないか。
 つまり、全体としてもっと市町村合併を進めるべきである。それをしないと、道州制に移ることなど難しくなる。現に県の権限が縮小され、県の存在価値が減少することを懼れて市町村合併に消極的であった知事もいた。強固な市町村の自治体制ができてはじめて、都道府県を解消した道州制が成り立ちうるのではないだろうか。
 それに、も一つ言えば、道州制の推進は言われて久しい(一番最初に、地方制度調査会が道州制の推進を答申したのは実に昭和三十二年、私が主計局で地方財政担当の主計官をしている時であった)が、それから半世紀、未だに間歇温泉のように道州制の推進が言われているが、本当に本気でどこが動いているのだろうか。
 もっとも、道州制を実施する場合、日本の国をいくつの州に、どう分割するのかについても甲論乙駁、果てしない議論はある。
 それに何と言っても、地域的にみてまず財政力に格差があり過ぎるし、それを調整するのは容易ではない。国が相当な覚悟をもって道州間の財政調節も出来るように工夫しなければ、ならないと思うが、簡単ではない。
 ただ、地方分権を本当に推進しようと思うなら、何と言っても、道州制を実現し、それに国の権限を委譲することが最も良いし、合理的だと思うが、読者諸賢如何に思われるか。
 
 


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