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相沢英之 のメッセージ 「地声寸言」 |
2008.11.28リリース |
第二十五回 <「ドバイの奇蹟」> |
親しい仲間たちの観光グループでドバイに行ってきた。五泊八日(機中二泊)のスケジュールであったが、私と家内は余儀ない用事のため三泊六日(機中二泊)の日程とならざるをえなかった。大変に残念であった。
しかし、ともかく、前々から一度観に行きたかったドバイだけに機会を持てたのは幸いであった。 とにかく、凄い建築ラッシュである。世界中のクレーンの三割(地元のガイドの話。私は以前もっと大きい数字を聞いていた)も集めているというのが本当のような活況である。到るところに空高くかかっているクレーンの群を見るにつけ、日本のちょっと以前の建築ラッシュなど物の数でないように思えた。 ブルッジュ・ドバイ(ドバイの塔)という超々高層ビルは一体何メートルの高さになるのかは発表されていない。発表すると、直ぐそれを凌ぐビルの計画が出てくるからという理由であった。このビルは九〇〇メートル以上になるとみられているが、既に千メートル、否、それ以上に高いビルの計画も噂されている。 ドバイの博物館を見学した。蝋人形などを沢山使ったヴィジュアルなもので、近々五十年の間にドバイが如何に大きく変わって来たかを示す材料ではあった。 まことにアラジンの石油ランプのような奇蹟を目の前に示してくれているようで、これすべて煎じ詰めれば中東に豊富に産出する石油のお陰と言えるだろう。 ドバイはアラブ首長国連邦の首長国ドバイの首都に過ぎないが、人口二二六万人の八割以上は外国人であるという。噴出し、ここ数年とくに価格が高騰したオイルの余慶を受けて驚異的な発展を続けるドバイを目がけて海外から流入する人達で溢れるドバイは人種の坩堝である。 もっとも、そこで得られる給与は、職種によって大差があり、大卒二、三年の女子職員(金融機関など)の月給が五、六十万円とも言われているのに、クレーンの下で汗まみれになって働いている建設労働者の日給は五、六百円であるという。物価も高い。このドバイで良く暮らせるなとガイドに尋ねたら、そういう人達には寮があって、そこでは殆どただで食事や宿泊りできるようになっているとの返事であった。 かつて、南アフリカ共和国を議員仲間数人と視察にでかけたことがあった。アパルトヘイトの囂しいボータ大統領の時代であった。 鉱山会議所の案内で金を採掘している現場を見た。一五〇〇メートルの地底に潜り、耳を聾する鑿岩機が十機も唸る切羽で流れる汗で黒光りのしている労働者の岩のような背中を見て、労働の厳しさを実感した。 彼等は外国人が多く、人種も様々。お互いに会話もできないために、鉱山内で作業に最低必要な共通語を作り、教えているという。彼等は鉄条網の取り巻いた、いわばラーゲル内に住み、兵隊の様な日常生活を送っている。宗教もまちまちであるために、ラーゲル内にはどこの宗教にも属しない礼拝所が設けられていた。 そんな収容所の生活のようなもので、よく我慢しているな、と疑問を呈したら、鉱山会議所の人からは、なに、金を稼いで故国に送金が出来るし、衣食住は安定しているので、外国からの希望者が多すぎるぐらいだという答が返って来た。 ドバイの外国人労働者の生活環境はわからないが、低賃金とはいうものの働く希望者は後をたたないのか、なと思った。 帰途、巨大なドバイ空港の広い廊下に何百人、いや、もっとかな、の人が毛布を被って床にごろ寝している異様な景色を見たが、彼等は建設労働者で、たまに故国へ戻る前の晩、ホテル代を惜しんでの所業かな、と思った。 とにかく、こういう労働者に支えられてドバイの街は目まぐるしい変貌を遂げているのではないか、と思う。 オイルの価格は、一頃より随分下がったとは言え、まだ一バーレル四八ドル(WIT)である。(アラビアンナイト)が昭和二十年頃は一バーレル一ドルぐらいであった。その後、世界中の物価は上がったが、オイルは最たるものではないか。 オペックの諸国は、油の価格を高いところに維持しようとして各国別の産油量を調整している。採油のコストは変わる筈はないのだから、油の価格の上昇は、それこそ濡手で粟のように利益を膨らませる。ドバイの発展は、なんと言っても中東オイルの金の力であることは、この度の旅行で身に滲みて痛感させられた。 ただ、理論的には油の量は有限である。いかに探査技術が発達し、採掘可能量が多くなろうとも所詮油は尽きる筈である。もっとも昭和三十年代でも油の残存量は三十年分と言われた。今も、その数字は余り変わっていない。とすると、あと三十年、更に三十年と同じことを繰返し言うのかもしれない。それにしても、有限であることは間違いない。 そこで、産油国は、その時の来るのを予期し、油に代わるエネルギー源の確保に向けて準備をしている。原子力はその最たるものであるが、石炭、火力、水力、太陽光、地熱、その他何でもエネルギー源となりうるものを確保しておこうとする。その努力を怠れば、いずれは、エネルギーを確保できず、成長はストップせざるをえない。 産油国が原子力発電に熱心と言われるのも、金のある今のうちに次に備えておこうとしているのであるという。それにしてもドバイの繁栄も無限に続くものではないと思うが、読者諸賢如何に考えられるか。 |