back 理事長 相沢英之 のメッセージ
       「地声寸言」
  2008.10.20リリース

第二十一回 <「時評あれこれ」(一)>
 一、米金融安定化法の成立
 
 十月三日、最大七千億ドル(約七四兆円)の公的資金で金融機関から不良資産を買い取ることを柱とする金融安定化法が成立した。米国の上院を通過した法案を下院が賛成多数(賛成二六三、反対一七一)で可決したのを受け、ブッシュ大統領が即日署名した。米国発の金融危機の封じ込めへ過去最大規模の税金を投入する金融対策が動き出した。
 下院は、九月二十九日、当初法案を共和党を中心とした反対で否決し、世界同時株安の引き金となったが、その反応の大きさを無視することは出来ず、今回、上院の修正案に下院も賛成することになったのである。
 なお、修正案では、預金者保護の拡充のため、金融機関が破綻した場合に保護する預金の上限額を一時的に一〇万ドルから二五万ドルに引き上げたほか、一部の個人や企業向けの税制優遇措置を延長、拡充したが、それによる減税額は總額で約千百億ドル(一一兆六千億円)と見られている。
 さて、これらの措置で米国から始まって全世界に波及している金融不安が抑えられるかどうかについては必ずしも明らかではない。無論、今回の措置の効果がなかったという訳ではなく、それなりに評価されているが、どれだけの金融機関が不良債権の買い取りに応じるのか不透明であり、又、金融機関が不良債権を売却すれば、自己資本不足に陥ることも考えられるため、さらに金融機関への資本注入や各国中央銀行による協調利下げなどが必要になると指摘されている(以上主として、十月四日、日経新聞記事による)。
 丁度、今から九年前、わが国の金融不安を解消するために金融二法案を成立させたが、その時の衆議院の金融安定化に関する特別委員会の委員長は私であったので、米国の今回の措置のニュースを読むにつけて、当時のことが思い出されてならない。
 あの二法案を審議するために臨時国会が開かれ、金融国会とも呼ばれた。当時、自民党と野党民主党、公明党との間で連日連夜激しい折衝が繰り拡げられ、結局、野党案も大幅に採り入れた金融二法が成立したのであるが、巨額の公的資金の投入については、強い反対論があったことは事実である。しかし、背に腹は替えられない思いで、成立させたのである。
 その後の金融機関の行動の推移を見てみると、幾多の統合、合併を積み上げながらではあったが、金融不安は漸次解消され、注入した公的資金も大部分国庫へ反納されるようになった。
 その経緯を顧みれば、金融二法はそれなりの役割を果たしたと言えると思っているだけに、今回の米国政府の措置も必要であったし、又、必ずや効果を発揮するものと思っているが、そう思うのは簡単すぎるかもしれない。
 
 二、メガ公庫の誕生
 
 十月一日、かねて懸案の中小企業金融公庫と国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、国際協力銀行が統合して日本政策金融公庫が発足する。十二年度には沖縄振興開発金融公庫も合流することになっている。
 小泉政権以来の課題であった行革の一環である。
 私は、行政改革は必要だと思っている。現に平成九年から自民党の行政改革本部の副本部長として主として独立行政法人の制度作りなどを担当して汗をかいて来たが、行革の本旨は行政の合理化、効率化にあるのであって、徒らに合併・統合を形式的に進めることではないと思っている。
 その点、この政府系金融機関の統合は甚だ疑問と言わざるをえない。中小、国民の二公庫の合併はまだ良いとして、農林を一緒にしてうまく行くか、ましてや国際協力銀行も合併してどんなメリットがあるのか、などとても納得し難い。商工業者に対する小口の金融と時に千億単位にもなる国際的な投融資と同じ屋根の下で業務を遂行する意味はあるだろうか。
 聞くところによると、四機関の組織体制はそのまま移管し、政策分野ごとに政府からの出資金などを区分管理し、効果を明確にするために勘定区分を四機関ごとに分けて、事業本部を置くことになっている。その上、国際会議業務では従来の事業と継続性を持たせるために、対外的には「国際協力銀行」の名前を引き続き用いる、ことになっているという。人事についても、従来の縄張りを事実上生かしているとしか考えられない配置である。
 つまりは、形だけ一本化したと言われても仕方ないような四機関統合のメガ公庫の発足である。
 かつての新日鉄、一勧などの統合の事例を思い出す。タスキ掛けの人事が長いこと続いたし、出先も付いた色はなかなか抜けなかった。それにしても、何十年も経てば、次第に統合の実が擧ってくる、といわれればそうかもしれない。
 今回のメガ公庫にしても、時間をかけて自然に融合して行くのを待っていれば、いいことなのだろうか。読者諸賢如何に思われるか。
 


戻る