back 理事長 相沢英之 のメッセージ
       「地声寸言」
  2008.10.06リリース

第二十回 <失言も三連発とは>
 九月二十四日発足した麻生内閣で国土交通大臣に就任した中山成彬氏は、二十五日午後行われた報道各社とのインタビューで失言を三連発した。
その発言内容(抜粋)は同月二十七日朝日新聞(朝刊)によれば次のとおりである。


 中山国交相の発言内容(抜粋)
 【成田空港】
 (滑走路の)一車線がずうっと続いて日本とは情けないなあと。「ごね得」というか、戦後教育が悪かったと思うが、公のためにはある程度自分を犠牲にしてでもというのがなくて、自分さえよければという風潮の中で、なかなか空港拡張もできなかったのは大変残念だった。
 【単一民族】
 外国人を好まないというか、望まないというか、日本はずいぶん内向きな、「単一民族」というか、世界とのあれがないものだから内向きになりがち。まず国を開くというか、日本人が心を開かなければならない。
 【日教組】
 ついでに言えば、大分県の教育委員会のていたらくなんて日教組ですよ。日教組の子どもなんて成績が悪くても先生になる。だから大分県の学力は低いんだよ。私は(文科相時代に)なぜ全国学力テストを提唱したかと言えば、日教組の強いところは学力が低いのではないかと思ったから。現にそうだよ。調べてごらん。だから学力テストを実施する役目は終わったと思っている。

 
 
 問題視した各社の記者が互いの内容を確認し会うなど直後から取材に動くと、国交省側はインタビュー終了から約三時間後の午後八時半すぎ、「大臣から『誤解を招く表現だったので撤回する』という話があった」とする広報課長名のペーパーを配布した。
 
 
 失言癖が懸念されていた麻生首相がこのところ麻生節も消えて発言が大分慎重になっているところに中山国交相のこの失言は、いわば手ぐすね引いて待っていた野党に恰好な攻撃材料を提供したからたまらない。早速、民主党は鳩山幹事長が、「信じられない大臣だ。発言を撤回して済む問題ではない。罷免すべきである」と発言している。
 失言が向けられた千葉県、北海道アイヌ民族ワタリ協会や日教組などから猛烈な反撃を受け、中山大臣、いわば平あやまりの態であったが、「何度頭を下げられても、大臣の資質を疑う」(二十七日毎日新聞朝刊見出し)とばかり責め立てた。
 当初辞めないと言っていた中山大臣も、このままでは総選挙に向けて折角スタートを切った麻生内閣に手痛いマイナスとなると判断し、二十七日夜、麻生首相に辞表を提出した。これで一件落着したかに見えるが、麻生内閣にとっても、自民党にとっても、決して少なくない打撃を受けたと思う。
 しかし、つらつら考えるまでもなく、中山大臣の発言が、ことごとく間違っていたとは言えない気がするので、私なりに所感を述べてみたい。
 
 (一)「成田」
 東京国際空港については、当初、千葉県の富津が最有力候補であったと言われている。確かに東京に近く、又、海岸を埋め立てれば所要の土地も容易に確保できるし、適地であると見られていた。住民も最終的には受け入れてもいいという意見が多かったようであるが、少しでも有利な条件を勝ちとろうとする余り、反対の態度を強く表現し過ぎて、遂に運輸省を諦めさせてしまった。あとで、あそこまで頑張ることはなかったと、住民も大いに反省したというが、的は成田に移って、凡ては後の祭りとなってしまったという。眞疑のほどは不明であるが、ありそうなことだという気もする。
 ところで、成田であるが、確かにここに新空港を建設するには、社会党議員も加わっての一坪地主運動を始め、地元以外から続々として入り込んで来た闘争団体が激しい反対運動を展開したことはよく知られている。
空港建設は大きな事業であるだけに地元の知事始め行政側の協力が不可欠であるが、当時、主計局の次長としてこの関係の予算を担当していた私の記憶では、本当に山ほどの注文がつきつけられていたことは事実である。その一々を 今覚えているわけでもないし、又、書く必要もないかと思っているが、もういい加減にして欲しいと言いたくなるような予算要求もあった。空港建設に直接関係のないと思われる事業も予算化した。それは正に「ごね得」と呼ばれてもおかしくない案件もあった。富津はごね損をしたが、成田は、或いは千葉県はごね得をしたというのは、当時を知る人の実感ではなかったか。
成田は未だに正規の長い滑走路の追加ができ上がっていない。こういう事業には土地収用法による買収という手段があるが、収用委員会の委員になり手がなく、やっと出来たのが平成十六年度で、委員会はただ一回県道に関して開かれたきりである。なお、聞くところによると成田空港に関する土地取得については収用委員会にかけないという申合せが出来ているという話である。
 いずれにしても成田空港の建設については、こういうことの累積によって、国から色々な助成措置を曳き出して来たから「ごね得」という表現もまんざら当ってなくもない。ただし、中山大臣、も少し言いようがあったのではないか、とは言える。
 
 (二)「単一民族」
 たしかにアイヌ民族が先住民族として存在し、長いことかかったが、今年の六月にアイヌの先住民族認定を政府に求める国会決議が採択されたし、政府に有識者懇談会が設置され、議論されている最中に、日本は単一民族であるという類の発言は極めて不穏当である。日本人の起源についていろいろな学説があり、どうも大陸や南方から流れついたいろいろな民族が多年島国で他との交流の乏しいまま成立して来た国家であると思うだけに、他の国々に比べれば、まあ単一民族のように相倚りつ相添って島国に住んで来た民族であるから、多民族の意識が乏しい、或いは全くないのは、そう咎めるべきことでもない気がする。
 
 (三)日教組
 このことについて中山大臣の発言は、まず述べていることが事実かどうかが 問題である。一部の新聞が触れているが、事実らしいところもあり、事実に反するらしいところもあって、これは実証する必要がある。文科大臣を経験している彼の発言が全く出たらめだとは思わないが、言い方がいかにもまずい。直截過ぎる。第一、教員の任命にしても、大分県ほどのことはないにしても、それに似たようなことが、他の府県では全くないのか。疑っている人は少なくないことだと記しておこう。  以上、これを要するに中山国交相はTPOを全く誤った点が失敗なのであって、言っていること凡てが間違っているとは思わないが、読者諸賢如何に思われるか。
 
 


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