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相沢英之 のメッセージ 「地声寸言」 |
2008.09.08 リリース |
第十八回 <ムダボとは(三)> |
国のムダをなくそうとする努力のなかにムダな法令の廃止が当然登場してくる。法律だけではなく政令、省令に至ると厖大な数に昇ることは言うまでもないし、それにそれこそ無盡蔵とも言うべき通達類がある。税制などは、通達行政と呼ばれているくらい、無数にあって、それこそ作った(書いた)本人でなければわからないと言われるようなものすらあると言われている。
税の法令集は毎年新版が出されているし、又、解説本も数多く出ている。役所の課長補佐クラスで部厚い解説本を出して、結構いい小遣稼ぎをしている人も、昔はいたようだが、今はどうなっているだろうか。 税理士は専門家だから税の法令について良く知っている筈であるが、そう思うのはどうも間違いであって、税務署出身は税理士の登録は割に容易に出来るようであるが、大体、署における勤務部署によってそれぞれ専門があって、専問以外のことについては余り良く知らない人も当然いる。それで、法令、通達の改正されたことを知らないで、とんでもない間違いを起こした例も耳にしている。 そこで、当然のことながら、思うことは税に関する法令などの簡素化である。そのためには制度そのものを整理合理化をしなければならない。税法には特別措置が山程ある。私が自民党の税制調査会長の時に、特別措置を思い切って廃止をし、それによって浮いた財源をもって法人税率を何%でも下げたらどうか、ということを提案したことがある。ところがどうだろう。これには役所側は必ずしも反対ばかりではなかったが、副会長、幹部、税調各部会などから一斉に反対をくらった。いろいろな特別措置があればこそ、各業界からの支持を得られるのであって、それこそ長いこと、ものによっては何十年も続いている特別措置を廃止するなど飛んでもないと猛反対であった。 私も長いこと大蔵省に勤務していて、それこそ党や各方面から要請や陳情を受けていたので、特別措置がどれ程の意味をもっているのか、知らないわけではない。 しかし、本当のところ、明日も亦かくてありなん式に今まで継続していたから、ここで切られては関係部会長など関係議員の面子にかかわると思われる点も少なくなく、切ったところで、実体は余り大したことはないものまで、とにかく無くすことは反対という特別措置もある。 あの電話帳と称せられる政調の各部会、特別委員会、調査会などの税制改正に関する要望を取り纏めたぶ厚い印刷物の殆ど凡てが特別措置に関するものである。あれを一つづつ審議をするのだから、税調の時間は果しなくかかるのだが、実際は、最後に会長一任をとりつけて、税務当局を相手にインナーが話し合いをしてケリをつけているのである。インナーもそれぞれの方面と関係を持っている人が多いし、又、いろいろ頼まれているから、結局、とても当初の意気込みほどには整理できないで、翌年以降に見送りとなるのが大部分なのである。 特別措置を凡てムダとは言わない。しかし、もう大して効果も受益もないもので残っているものも多いし、いつかこの辺で余程特別なものを除き原則 全廃とするのがいいのではないか。そこで、かなりのムダが排除されると思う。ムダと思うか、思わないかが問題には違いないが、党が力を振ったらできるのではないか。 もし、そうなれば、税の解説本もほんとに薄くなるし、特別措置をめぐる喧嘩騒ぎもなくなってくるのではないか。 も一つ例を挙げると株式の譲渡所得課税。私は、前から源泉分離一本化が一番良いと主張していた。理由は、課税の手間が簡単で、税収も確実にあるし、第一、税務署に呼び出されなくて済むということだろうか。申告分離一本化の流れが財務省内にも党税調の中ですら強くて、結局そうなったが、課税の簡素化も考慮して、特定口座方式とし、実質源泉分離の近い実態も遺すことになった。 税率も、配当と同じく、貯蓄から投資へという相言葉のもとに二〇%から一〇%に引き下げ、譲渡損の繰越しも認めることにした。 ところが、この措置は来年三月末で切れるというところから、麻生幹事長あたりの提唱もあって、株価下落の現況に対処する、いろいろな事が検討課題となっているようであるが、私は、この際、現行制度を恒久化するか、それがムリなら、差当り3年ぐらい延長するのが一番良い対策となると確信している。 もっとも、本音は、申告分離を廃して、源泉分離一本化にし、税率は昔の一.〇五%から引上げて一.五%〜二.〇%にしたら、税収もぐんと増えて税当局の増収目的も達せられると思う。 税は負担感が少なく、徴税当局の手間も省け、しかも税収が上がるというのが一番良い制度だと思うので、敢て源泉分離の復活を提案したい。学界や納税者からも強い反対が出るようなことはないと、思っている。 行政の事務の簡素化もできるし(申告分離制導入を認めた時に税務署長の増員もした)、ムダをなくす一手段だと思うが、読者諸賢如何に。 |