back 理事長 相沢英之 のメッセージ
       「地声寸言」
  2008.07.22 リリース

第十一回 <たばこ増税賛成>
 このところ「たばこ税」の引上げ論が強くなっている。前にもこの欄で採り上げたと思うが、改めて賛成論を述べたい。たばこを吸わない人間は増税賛成を言う資格はないという反論もあろう。事実、たばこ喫みが夜中にたばこを切れた時の苦しさなど吸ったことのない人にはわからない。高校へ入学すると同時に酒、たばこは解禁になると思っていた戦前派の私は、長ずるに及び、酒は一升、たばこは多い時は日に百二、三十本も煙にする程の愛煙家、というよりたばこ中毒みたいであった。1日マッチ一本でいいとも言われた。朝、寝床で一本マッチで火をつけて以来、食事中も、仕事中も、たまにゴルフをしても、風呂に入ってもたばこを口から離さなかった。完全なチェーン・スモーカーであった。
 その私が、昭和四十三年の1月主計局の次長の時、思い立ってたばこを止めた。十日近くに及ぶ予算折衝の大詰め、1日2、3時間の睡眠は食欲を奪い、固形物は喉を通らず、毎日、牛乳、卵、酒の流動物で凌いでいた時期、当然たばこはひっきりなしに口に銜えていた。
 予算の最終閣議を終わって、やれ嬉しやと思って、打上げで飲んだ帰途、急に気分が悪くなり、死ぬかと思ったので表参道を走っていたタクシーから飛び降り、角の中華料理店の床へ倒れ込み、救急車を呼んで貰った。ピーポーと走る車のスピードの遅いこと、早く走れと心で叫び続けること十数分かな、救急病院へ着いた。医者の顔を見た途端に、苦しさが消えた。心電図などいろいろ検査をして貰ったが、異常はないとのこと。すっかり、笑われたが、その医者曰く、いずれにしてもそんなに酒やたばこを飲んでは無理ですよ。両方減らしたらいい。私は即座に、減らすことは今まで何べんもやってみたが、直ぐ元に返る。むしろ片方を止める。たばこにする。酒は百薬の長と言うが、たばこは百害あって一利なし。
 事実、その時からたばこをぴったり止めて今日に至っている。私は、かって高校生の時陸上競技部に所属していた。ここは禁酒、禁煙であった。高校生になって何故ダメなんかと思ったが、事実、たばこ1本で百米の走りも苦しくなることを体験した。私は、酒、たばこを止めたくないので、仲間とはかって退部したが、運動部が禁煙にする理由はわかった。
 日本のたばこは、次表のとおり外国に比べても安い。
 
  紙巻たばこ1箱(20本)の価格(2002年5月31日現在、米ドル換算)


紙巻たばこ1箱(20本)の価格(2002年5月31日現在、米ドル換算)
国 名
米ドル
 
国 名
米ドル
ノルウェー
7.56
ベルギー
2.63
英国
6.33
オランダ
2.56
アイルランド
4.46
オーストリア
2.37
米国
4.30
日本
2.18
オーストラリア
4.02
ルクセンブルグ
1.94
シンガポール
3.99
イタリア
1.93
香港
3.97
ギリシャ
1.79
ニュージーランド
3.88
スペイン
1.66
カナダ
3.80
ポルトガル
1.63
デンマーク
3.77
韓国
1.02
スウェーデン
3.64
タイ
0.80
フィンラン
3.53
ブラジル
0.57
フランス
2.76
  フィリピン
0.44
ドイツ
2.76
  インドネシア
0.43

資料:カナダNon-Smokers' Rights Association , 英国Action on Smoking and Health


 たばこの健康に与える害はいろいろ議論はあるが、既に証明されている。
 心筋梗塞を進める。胃を悪くする。火事のもととなる。などなど。いくらでも挙げられる。もっとも、「一利なし」とは言ってみたものの、朝の一ぷく、食後の一ぷく、仕事の仕切りをつけての一ぷく。ふわーっとうす紫の煙を見つめている時の、何はともない安らぎ、解放感などなど。世の中のこと、大てい良い、悪いと両面を持っている。しかし、にも拘らず、やはりたばこは国民の健康、福祉の面からみて、止めたほうがいいと思う。
 というと、私は、タスポの導入のような姑息な対策は大反対である。自動販売機を制限する際も反対であった。酒についても同様である。満二十歳以下の若者に本当に酒やたばこを飲ませないようにするのなら、罰則でもきちっとつけて、取締りをきつくしたらいい。そういう基本的なことを放置しておいて、買い手がどうのこうのなどいう枝葉末節の取締りを言挙げするから、対策も穴だらけで、手間ばかりかかって、効果が上がらないのである。
 従って、一番、自然にたばこ対策を考えれば、たばこ税の増税、たばこの値上げしかない。
 今一箱三〇〇円程度のたばこを一箱千円にするとすれば、たばこ税一箱(二十本)現行一七五円に七〇〇円加わって八七五円になる。販売が落ちなければ(ありえないが)税収二・二兆円が約十一兆円となり、約八・八兆円の増収である。これは捕らぬ狸の皮算用で実際はいくら消費が減るかがポイントである。
 かって、ニューヨークでは税金を十倍にしたら、収入は三倍まで落ちたという。それにしても大変な増収である。たばこの値上げに販売店は反対どころか喜ぶべきことで、売上げに対し一〇%のマージンは確実に増加する。
 私は、自民党の税制調査会長の時、平成十三年、たばこ税を一本1円引上げた。一本2円引上げたかったのだが、当時連立を組んでいた自由党(党代表の野田毅氏)の反対が強く、1円がやっとであった。小泉首相は厚相時代からの意向もあってか、2円値上げを最後まで固執していた。
 たばこ税の引上げは、消費税の税率引上げと思う。単に財政収入の増加だけを目的とするものではないだけに、いろいろな観点からも早急に実現に漕ぎつけるべきものと考えているが、読者諸賢如何に。
 


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