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相沢英之 のメッセージ 「地声寸言」 |
2008.06.06 リリース |
第九回 <消費者庁は要るか> |
福田首相が就任以来重要課題に据えてきた「消費者重視の行政への転換」は五月二十一日、消費者行政推進会議による素案提示で、ようやく形としてみえてきた」と五月二十二日付の産経新聞は記している。
私は、縦割り行政のなかでとかく埋没しがちな消費者サイドからの行政に対するもろもろの要請を取り纏めて受けとめる消費者庁の設置には賛成である。 昭和四十六年七月環境行政を束ねる役所として環境庁が創設された時も賛成であった。その理由は、各省の行政がテーゼであるとすれば、環境庁の行政は、いわばアンティテーゼで必要であると思っていたからである。 事業を進めるに際し環境破壊にならないようにと各省庁の中で慎重に注意もし、もしその懼れがあれば、それに対する施策を実施するのは当たり前であるが、そもそもいわば生産者側に立つ各省の環境に対する配慮にはとかく限界があることは明らかであった。 例えば、電力会社が空気を汚染するような煤煙を放出するとき、環境上の立場から種々の規制を加えることは経産省も当然実施すると思うが、例えば、電力の消費規制を本気で進めることは、そもそも電力供給の産業を所管している経産省としては、強い措置を求めることは難しい。従って、ここに、いわばテーゼである経産省の行政に対してアンティテーゼである環境庁の存在の意義が出てくる。経産省の環境に対する配慮が不充分であると言っているのではなく、ただ、その行政の立場上の制約がある、と言いたいのである。 環境庁の行政は、各省庁にとっては、それこそ煙たい存在であり、いわば邪魔な役所であり、世に言う憎まれっ子の役割を担っている。 消費者庁の場合も関係各省に対しては同じような役割を持つといえる。つまり、テーゼに対するアンティテーゼである。その両者の対立からジンテーゼが生まれてくるという恰好である。 そもそも消費者行政とは何ぞや、ということだが、生産者は通常数も少なく、纏りやすく、又、利害関係が明らかであって、その業界を所管する各省と結びついている場合が多いのに反して、消費者サイドは一般的には数が多く、纏りも悪いし、利害関係の歩調も揃っていない。 私は、かって大蔵省から経済企画庁の官房長に出向している間に国民生活局と協力して国民生活センターを創設することに尽力した。 国民のすべては何らかの形での消費者であるから国民生活センターというのは消費者センターといわば同意である。 人が朝起きてから寝るまでの間に、消費者として、それこそあらゆる点について不満を持つことが多い。 朝、顔を洗う。水が濁っていることがある。変な臭いがすることがある。朝食を摂る。ガスの出が悪い。炎が赤くて、青くならない。お米に虫が入っていた。のりに砂がついていた。卵の黄味がでれっとしていた。 服を着る。毛一〇〇%と記してあるのに、どうも布地が固すぎる。嘘ではないか。電車に乗る。予告も充分でないのに運賃を値上げしている。足の悪い人もいるのにエレヴェーターの一つもない。 こう書いていても切りがないから止めるが、そういう一日の生活のあらゆる面から生じてくる不満を一体どこにぶっつけたらいいのか。消費者という言葉で律し切れるかどうかわからない点もあるが、とにかく毎日の生活上の不平不満をぶっつけるところがあってもいいではないか。否、あるべきではないか。 世の中には、機械、器具のたぐいが溢れかえっている。その中には、JISマークなどつけていても結構危ない製品も含まれている。その安全性を検査するところがないだろうか。 暮らしの手帖などが、いろいろな家庭用品について比較調査をし、紙上に発表するようになった。メーカー側からの批判、反対を押し切って、そういう調査をするには、一切の広告を貰うわけには参らぬ。 それなども参考にし、メーカーの圧力などには屈しないような安全性や材質などについての検査をすることができるような機関をということで国民生活センターを創設することにしたのである。それには施設設置の土地、建物、器械がいる。それに何よりも人。自分なりに一生懸命にその設置に努力した。 本当言うと、私は、単に家庭用品(自動車までも含むが)の検査を行うだけではなく、国民の日常生活上のあらゆる不平不満について、電話をかければ、即座に、どこへ訴えたらいいか、話したらいいか、そして出来たら間に立って斡旋行為をしてくれるような場所にもしたかったのである。 そして電話番号まで考えた。二二九。フフク・不服である。ここへ電話をすれば、例えば離婚したいと思うが、どこで、どういう手続きをとればいいか、飲食店を開きたいが、どこへ、どういう書類を出したらいいか、など、無数の相談事に対して、電話一つで回答をしてくれるところである。国民生活センターのイメージをそうしたかったが、それには相当大きな仕かけを必要とするとなって、その節は、私の思いにとどまらざるをえなかった。 消費者庁を作るという。各省庁から当然大きな抵抗がある。反対の圧力もかかるだろう。しかし、国民の一人一人がより満足な生活を求めているその願望を少しでも叶えてやれるためには、敢えてアンティテーゼとしての消費者庁の設置が必要だと思うし、そして出来れば、かつて、私の考えた「二二九」の実現なども是非望みたいと思っているが、読者諸賢如何に。 |