back 理事長 相沢英之 のメッセージ
       「地声寸言」
  2008.04.15 リリース

第三回 <近頃思うこと>
  大へん大雑把な言い方で恐縮ですが、最近とくに痛感するのは、諸外国がそれなりの経済成長を果しているのに、何故、日本がこうした低迷を続けているかが、よくわからない、ということです。
 もともと資源小国の日本ですし、原材料を輸入し、これを加工して手間賃を稼ぐという、昔ながらの輸出依存の経済体制は変らないと言えそうです。近頃の円高が円貨の手取りを減らしているという現象も見られますが、そういう分析を越えて、何となく国民が活力を喪って来ているのではないか、という気がいたします。
 少子化現象も到るところで影響をもたらしていると思えるし、それに近頃は又、政治情勢の混迷が一層経済の沈滞に輪をかけているのではないでしょうか。
 例えば、年金問題。根本的には年金制度が幾つにも分れていたことが問題なのでありましたし、本来、こういう制度は国が全責任をもって一元的に実施すれば良かったと思います。とくに地方団体のような小さく数多い単位に事業の実施責任が委されていた時期があったりしたことが制度の一元的運用を妨げた原因の一つではなかったか、と思っています。
 それにしても、担当の舛添厚労大臣が三月末までに全部処理すると断言したことの責任は追求すべきで、第一、あの段階ではとても無理だと思われていたことを約束するなど軽薄な言動はいただけない。問題の複雑さ、処理の困難さについて、見通しを誤まったとすれば、事務当局の大臣補佐の責任も追求せざるをえない。
 この上は、とにかく過去の言辞の不明さを詫びるとともに誠意を盡して、問題の解決に取り組む決意を改めて披露して貰いたい。
 日銀の総裁、副総裁の人事について、相変らず、与野党の折衝が続いている。白川新副総裁の総裁昇格はいいとして、渡辺副総裁の件は、彼が財務省出身者なるが故に飽くまで反対であるとの小沢代表の意見が民主党内をまかり通ったようである。
 総裁も副総裁もただ単に財務省出身者であるというだけの理由で、財・金分離の原則に反するからと言って反対のようであるが、一体、財・金分離が何故絶対に必要なのか。もし假に百歩譲って財・金分離の考え方が妥当であるにしても、財務省出身者がすべて財政に偏した考え方をする人間であると決めてかかることも理解できない。又、過去長い期間にわたり、いわゆる襷がけの人事で、財務官OBと日銀OBと交互に総裁に選任されて来たが、財務省OBの総裁の時、日銀の運営がいつも不適切であったと言えるのか、等々疑問を続さざるをえない。
 平成九年、私は自民党金融制度調査会(現金融調査会)の日銀法改定小委員長として大改正の作業を担当した。日銀の自主性 の尊重及び透明性の確保を唱ったが(第三条)、その第四条において、「日本銀行は、その通貨及び金融の調節が経済政策の一環となすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない。」と規定している。
 政府の経済政策は当然財政政策が基幹となるものであるから、日銀の行う通貨及び金融の調節は、政府の財政政策と緊密な連繋を保っていなければならないことは言うまでもない。財政と金融は一体的に運用されなければならないのが大原則である以上、財・金分離などことごとしく主唱すること自体がナン・センスと言わざるをえない。
 かつて、法皇といわれた某総裁が大蔵大臣となったが、その財政オンチぶりには、当時の事務当局も手を焼いていたことを想起する。日銀総裁・副総裁たらんとする人は、財政・金融の両面に明るく、識見を持った人でなければならないので、財政省OBなるが故にこれらのポストに不適というような小児病的な見解を持つべきではないと思っている。
 次に道路財源問題をも一度採り上げる。揮発油税、重量税などは、そもそも税法上はいわゆる目的税ではなく、歳出面で計上すべき道路費の額が揮発油税の収入額を下回ってはならないことを規定しているに過ぎない。しかし、揮発油税の収入があるから、やみくもに同額以上を道路費に計上することを法律上義務づける必要がないというのも十分一理あることであるから、歳出面での義務規定を削除することには賛成である。もっとも、現在でも地方団体の大部分は、公共事業費の中でも道路費を確保することが必要と考えているので、義務的な歳出計上の規定を廃止としても、現状通りの道路費予算を計上せよという要求が強いに違いないし、それでいいと思う。四十七都道府県の大部分が揮発油税を一般財源化することに反対をしているし、假に一般財源化されても恐らく必要な道路費は計上することが明白である以上、実際上制度改正によって道路費予算の額が、前年度より著るしく減額されることは考えられない。
 そうである以上、又、一般的に財政制度として法律によって義務支出を定めることは、財政運営を硬直化させる弊があるから、道路財源についても、他の経費に関しても、特定事項への歳出額や割合を固定化することは、財政の弾力的な運営を阻碍することになる以上、原則的に認めるべきではない。
 ただ、道路族の方々が心配するように、それによって道路費予算が激減するなどということは、およそ考えられない。
 ともかく、道路財源問題については、いわゆる揮発油税収の一般財源化に反対する実質的理由がないと思っているが、読者諸賢如何に思われるか。
 


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